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イントロダクション―僕がマークと一緒に過ごした時間

ピーター・ウェルド

2021年の夏、僕ピーター・ウェルドは、スプリングボード・ジャパンにマークの写真を撮るという仕事を依頼された。その写真は、彼が寄稿するはずだったエッセイに添付されることになっていた。僕はズーム・ミーティングを通してマークに自己紹介した後、写真撮影の日程(このサイトに載せた2021年9月26日のもの)と撮影スポット(渋谷・東京大学駒場キャンパス・お台場など)を相談し、一緒に決めた。

春になって、桜があちこちで開花し始めたころ、僕とマークは2度目の撮影(このサイトに載せた2022年3月28日のもの)を東京大学本郷キャンパス行った。そして2022年の夏、マークを紹介してくれた、スプリングボード・ジャパンのシュミット堀佐知さんと3人で一日を過ごした。最後にマークと会ったのは、同じ年の12月10日。彼をテーマにしたドキュメンタリー映画が製作されることになり、僕はその舞台裏の写真を取るよう依頼されたのだ。僕はマークと映画のスタッフと一緒に渋谷と東京タワーに出かけ、宣伝用の写真を撮った。その日から一週間も経たないうちに、彼の訃報が舞い込んできた。

僕がマークに撮影の件で連絡を取るたび、彼はいつも「いいよ、ピーターはいつが都合いい?」と返事をしてくれた。天気予報を調べたら、撮影予定日は天候が悪そうだから、と言って延期したことはあったけど、「いまちょっと忙しいから」とか「気分が乗らないから」などという理由で、撮影の予定が立てられなかったことは1度もなかった。彼にとって、外出は容易なことではなく、彼の前には常にさまざまな壁が立ちはだかっていたのに、マークはいつも前向きで、チャレンジ精神に溢れていた。

映画のスタッフたちと過ごした12月10日、その日の撮影が終了して、みんなで新橋駅近くの小さい食堂に入った。マークの注文したものが運ばれてきて、僕はあっと思った。彼は右手で箸を握り、左手でその右手を支えながら食べなくてはいけなくなっていた。彼の筋肉は、利き手で箸を持つことすら難しいほど、衰えてしまっていたのだ。