1. The Arrhythmia of Finance (通称ARFIN) (教授:Peter R. Fisher)
ファイナンスはどうして間違いを起こすのか、ファイナンスの常識は妥当なのか、「定性的に」考えてみようという授業です。「定性的に」というところがポイントで、数字はあまり出てこず、論理学や心理学に近い授業となっています。説明が難しすぎるので、いくつかのトピックを箇条書きします。
- 「リスク」という言葉が曖昧過ぎて意思決定に悪影響を与えている件について、徹底的に分析
- あなたの自家用車や、博物館建設のために受け取った補助金は、本当に「資産」なのか。
- トレーダーの体内ではどんなホルモンや信号が行き交って意思決定にどう影響しているか
- 後知恵バイアスや選択的注意などの、人を自信過剰にする落とし穴
この授業はoutside-the-box的な視点が多数身に着く素晴らしい授業で、その後の授業はもちろん、世の中の見方に対しても、今まで持たなかったような視点を与えてくれます。授業のディスカッションの中でも、たびたび「ARFINで言うところの●●を考慮すると・・・」みたいな発言も出ます。唯一の難点は、反吐が出るほどのリーディングの量です。
2. Managing Stakeholder Issues in Private Equity (教授:David Marchick)
カーライル重役であったDavid Marchickの授業です。タイトルのとおり、PEファームが、Limited Partners、被買収企業の役員や従業員、政府、コミュニティといったステークホルダーにどう対応していくのかにフォーカスした授業で、数字は扱いません。被買収企業が清算された時、(法的根拠のない)一時金を従業員に払うべきかとか、リターンが高い民間刑務所への投資等、controversialな案件について、議論を深堀りします。
また、David自身が中心で携わってマスコミに大々的に称賛された数年後に、手のひらを返したように扱き下ろされたケースなども扱います。Zoom環境下で授業は通常録画されておりますが、彼は頻繁に録画を止めて色々裏側を教えてくれます(笑)。
3. Venture Capital and Private Equity Basics (教授:Gordon Phillips)
Basicsという通り、VCPEの基礎を学べる授業です。私はファイナンスバックグラウンドでありながら、VCPEに携わったことがなかったので、様々な株式の特性、契約書、バリュエーション、キャッシュウォーターフォール、SaaSモデルの分析などなど、非常に効率よく学べたなと思います。
レクチャーとケースが交互に行われるので、ステップバイステップで知識が定着していくのをよく感じられました。生徒からのEvaluationが相対的に低い授業なのですが、VCPEの経験がある方には物足りないからかもしれません。が、Basicsを学びたい学生にとっては、学びの多い授業でした。
4. Investments (MSQM)(教授:Juhani Linnainmaa)
投資理論の基礎を学ぶ授業です。カバーする内容は、接点ポートフォリオやCAPMや3ファクターモデル、効率的市場仮説の是非など、基本的な内容です。ただし、今まで適当な理解でごまかしていた部分をみっちり理論で教えてくれます。なので、Investmentsに関わる予定がある(キャリアor個人的な資産運用)けれども、コアの理解だけじゃ不安という向きの授業かと思います。
5. Advanced Corporate Finance and Governance (MSQM)(教授:B . Espen Eckbo)
コーポレートガバナンスの分野の権威であるProf. Eckboの授業です。MBAの授業らしくなく、リーディング教材はほぼ学術論文で量も相応にあります。扱うテーマは、アクティブ投資家がガバナンスに果たす役割、女性取締役登用義務の是非、役員の高額報酬、IPO価格はなぜUnderpriceされるのか、D/Eレシオに関する意思決定のファクターは何か、DIPファイナンスといった内容で、タイトル通りファイナンスだけではなく「ガバナンス」の視点も多く学べる授業です。
また、全てのテーマにおいてAnalytics I&IIで学んだ統計が用いられます。たとえば、女性取締役のテーマでは、突然女性登用義務が発表された国・地域の上場会社を対象に、株式の短期/長期パフォーマンスに対して、女性取締役が現状何人不足しているのか、女性取締役候補が見つけやすい産業か、などといった説明変数がどう影響を与えるのかという分析をします。
MBAらしからぬアカデミックな授業ですが、Prof. Eckboが言っていたように、「ケースを学ぶのも楽しいけど、論文を学ぶことであなたは他の人と違う別の視点を持つことができる。そしてその別の視点は、交渉などの場面で、あなたをベターポジションにいざなってくれるよ」ということだと思います。負荷は大きめですが、知識が増えたことは勿論、多くのWays of thinkingを身に付けられた非常に学びの大きい授業でした。
6. Managerial Accounting (MSQM)(教授:Joseph Gerakos)
タイトルのとおり、管理会計の授業です。外部報告のための形式的なものではなく、正しく会社を理解し判断を行うためにコストや利益をどう分析するかを学ぶものです。
そして、Gerakos教授の教え方が秀逸。ほぼ毎授業課されるグループ課題は結構大変なのですが、そのグループ課題への取り組みを通じて得た知識をベースに、毎授業1つか2つの超エッセンシャルな部分のディスカッションにかなりの時間をかけます。「損失をもたらす顧客とどうして取引を継続すべきなのか」「ニワトリの飼料代は、モモ肉とムネ肉の間でどう分けるべきか」。そういう1つの質問への回答を10人、20人の学生に問いかけ、すこしずつ本当の答えに近づいていく、そんなダイナミックさが感じられ、そのプロセスで得られた考え方は、すごく定着しているように感じます。
形式的な財務分析やバリュエーションをする上では、当授業の知識は必要ありませんが、「その会社の本質を見抜く」「会社が本当に解決すべき問題を特定する」上では必須の授業と言えます。「Tuckの必修科目にすべきだ」という声があるのもうなずけます。なので、ファイナンス系に分類するのが嫌だったんですが、やむなくここにフィットさせました。